行政書士ささき事務所

「リハ職に開業権はない」は本当か?自費リハを合法的に立ち上げるための法的思考

「もっと一人ひとりの利用者様に寄り添ったリハビリを提供したい」

「病院の枠を超えて、自分の技術を試してみたい」

そんな想いを持って自費リハビリ(保険外サービス)の開業を志したとき、最初に突きつけられるのが「リハビリ職には開業権がない」という言葉です。

「医師の指示がないと違法になるのではないか?」 「保健所に目をつけられたらどうしよう……」

ネット上にはさまざまな情報が溢れていますが、根拠のない憶測や「多分大丈夫」という甘い言葉を信じるのは危険です。法的なリスクを放置したままの開業は、あなた自身だけでなく、大切な利用者様を危険にさらすことにもなりかねません。

結論から申し上げます。「開業権」という言葉は、法律上どこにも存在しません。

理学療法士及び作業療法士法を最初から最後まで読んでも、理学療法士が事業を営むことを禁じる条文は一つも出てきません。にもかかわらず「開業権がない」という言い方が業界に定着しているのは、条文が何を規制しているのかが正確に共有されていないからです。

規制されているのは「開業という形態」ではなく、「提供する行為の中身」です。ここを取り違えている限り、不安は消えません。

私は、理学療法士として12年現場の最前線に立ち続けてきました。そして現在は行政書士として、法的な側面からセラピストの独立支援を行っています。

現場の「リアル」と法律の「ルール」。この両方を知るダブルライセンスの視点から、理学療法士が合法的に、かつ堂々と自費リハを運営するための考え方を詳しく解説します。

PT・OT法は、実際には何を禁じているのか

まず、私たちが直面する条文を正確に押さえましょう。ここが曖昧なままでは、守るべき線がどこにあるのか分かりません。

理学療法士及び作業療法士法が理学療法士について定めているのは、主に次の2つです。

第2条第3項(定義)
「この法律で『理学療法士』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。」

第15条第1項(業務)
「理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。」

この2つから読み取れることを整理します。

(1)「開業を禁じる条文」は存在しない
あるのは、「理学療法士とは医師の指示の下に理学療法を行う者である」という定義と、「診療の補助として理学療法を行える」という権能の規定だけです。
「開業権がない」という言い回しは、第2条第3項の定義を読んだ業界内の通俗的な表現にすぎません。法令用語ではありませんし、開業そのものを禁じる規定でもないのです。

(2)線が引かれているのは「理学療法」という行為
重要なポイントは、「理学療法(治療)」という行為は、医師の指示なしに反復継続して行ってはならないということです。

つまり、病院と同じような看板を掲げ、医師の診断や指示なしに「病気やけがの治療」としてリハビリを提供すれば、それは明確な法律違反となります。この場合、PT・OT法の問題にとどまらず、医師法第17条(医業の無資格実施)にも抵触しうる点に注意が必要です。

規制の対象は「開業したかどうか」ではなく「何をしたか」です。

なぜ「自費リハ」は合法と言えるのか ― 判例と厚労省通知に基づく法的解釈

「理学療法士に開業権がない」と言われながらも、自費リハビリ(保険外サービス)が合法的に成立する根拠は、主に最高裁判例が示した一般原則と、厚生労働省による公式な通知の2点に集約されます。

1. 憲法第22条「職業選択の自由」と最高裁判例

日本国憲法第22条第1項では、「何人も、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する」と定められています。この「公共の福祉に反しない限り」という制限について、最高裁判所は極めて重要な判断を示しています。

【参考となる判例】 最高裁判所大法廷判決 昭和35年1月27日(刑集14巻1号33頁)
いわゆるHS式無熱高周波療法事件。最高裁は、あはき法が医業類似行為を禁止・処罰する規定について、「人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限って適用される」と限定的に解釈すべきである、と判断しました。

行政書士・PTとしての解釈:

まず正確に申し上げると、この判決はあはき法の解釈を示したものであり、PT・OT法について直接判断したものではありません。そのまま自費リハの適法性の根拠になるわけではない、という点は押さえておくべきです。

しかし、ここで示された「資格制度による業務規制は、健康被害のおそれという実質的な理由がある範囲でのみ正当化される」という考え方は、憲法第22条第1項の職業選択の自由を踏まえた一般原則として、自費リハを考えるうえでの重要な出発点になります。

逆に言えば、この原則は同時に警告でもあります。「人体に危害を及ぼすおそれ」を作ってしまった瞬間、この論理はあなたを守ってくれなくなるということです。

2.名称使用に関する通知(医政医発1127第3号)

平成25年11月27日、厚生労働省医政局医事課長から各都道府県あてに「理学療法士の名称の使用等について」(医政医発1127第3号)が発出されました。要点は2つです。

  • 理学療法士が介護予防事業等において、身体に障害のない者に対して転倒防止の指導等、診療の補助に該当しない範囲の業務を行うときも、「理学療法士」という名称を使用することは何ら問題ないこと
  • このような診療の補助に該当しない範囲の業務を行うときは、医師の指示は不要であること

ここで正確に読んでおきたい限定があります。

この通知が明示的に「問題なし」としたのは、あくまで身体に障害のない者に対する、診療の補助に該当しない範囲の業務です。この部分を切り取って「理学療法士は医師の指示なしに自由に活動できる」と読むのは、通知の射程を超えています。

そして自費リハの主な対象は、脳卒中後遺症や術後の機能低下など、まさに「身体に障害のある方」であることが少なくありません。つまりこの通知は、自費リハの中心領域をそのままカバーしているわけではないのです。

では障害のある方への自費サービスは黒なのか。そうではありません。判断の分かれ目は対象者の状態ではなく、提供する行為が「診療の補助(医行為の補助)」に当たるかどうかにあります。医学的管理を前提とした治療行為であれば医師の指示が必要であり、生活動作の維持・向上を目的とした指導や運動であれば、その枠の外にある。

だからこそ、次に述べる「定義」の作業が決定的に重要になるのです。

3. 「白」として運営するための絶対条件

これらの根拠から導き出される結論は、「提供するサービスを『治療』ではなく、身体機能の維持・向上を目的とした『ヘルスケア・サービス』として定義すれば、独立開業は可能」ということです。

ただし、以下の4点は「白」であり続けるための必須条件です。

  1. 契約書での明文化 「本サービスは医療行為ではなく、医師の指示に基づく理学療法ではないこと」を利用者に説明し、書面で合意を得ること。あわせて、体調急変時の対応、免責の範囲、中止基準を定めておくこと。
  2. 広告表現の厳守 「完治」「治す」「治療」といった医療を想起させる表現を避けること。医療法の広告規制は医療機関でない事業者には直接適用されませんが、景品表示法の優良誤認表示は適用されます。効果を断定する表現は避けてください。
  3. 安全性の担保 リスク管理を徹底し、「人体に危害を及ぼすおそれがない」運営を証明できる状態にしておくこと。具体的には、開始前のスクリーニング、中止基準の明文化、緊急時の連絡体制、そして賠償責任保険への加入です。
  4. 記録の整備 実施内容・利用者の状態・判断の根拠を記録に残すこと。万一の際、あなたの運営が「治療」ではなかったことを示す証拠になります。

結び:法律は、あなたを守る「盾」になる

「開業権がない」という言葉は、法律ではなく、業界の空気がつくった壁でした。

本当に引かれている線は、「治療」と「ヘルスケア・サービス」の間にあります。その線を自分の言葉で定義し、契約書に落とし込み、広告表現を整え、記録で裏づける。これらができていれば、あなたの事業は法律の内側にあります。

法律は、知らないうちは足かせにしか見えません。しかし正しく理解し、書面という形で備えた瞬間に、あなたと利用者様を守る「盾」に変わります。

次回は、リハ職(PT・OT・ST)の独立開業ガイド|訪問型と通所型、どちらから始めるべき?をお届けします。

※本記事は一般的な法令解釈の解説であり、個別の事業内容における適法性を保証するものではありません。

📌行政書士ささき事務所では無料相談を受け付けております!

契約書の料金表→

【平日】09:00~21:00【休日】09:00~18:00

24時間お問い合わせ可能!
確認次第すぐご連絡いたします